入居者さんの写真をホームページに載せるとき——同意の取り方と個人情報の実務

この記事の目次
「うちの利用者さん、笑顔がいいから写真を載せたいんです。でも、勝手に載せて大丈夫ですかね」
施設のホームページ(HP)をお手伝いしていると、この質問をほんとうによく受けます。写真は、パンフレットの何倍も雰囲気を伝えます。だからこそ、載せたい。でも、こわい。——その気持ち、よく分かります。
私は介護の現場に22年いて、今も現場に立ちながら、介護事業者さん向けにHPやLINEの制作をしています。介護福祉士でもケアマネ(介護支援専門員)でもあります。だからこそ、写真の力も、個人情報の重さも、両方ひしひしと感じています。
この記事では、入居者さんの写真をHPに載せるときの実務を、次の3点に絞って整理します。
- 同意はどう取るか(口頭ではなく書面で)
- 誰の同意が必要か(本人・ご家族・後見人)
- 撮ったあとをどう管理するか(利用範囲と「外して」への対応)
法律の話も出てきますが、むずかしくは書きません。迷うところは、専門家に確認するのが一番です。まずは現場で押さえたい勘どころを、いっしょに見ていきましょう。
「顔を載せていいんですか」——現場でいちばん聞かれること
結論から言うと——ご本人(またはご家族)の同意があれば、載せられます。逆に、同意がなければ載せてはいけません。とてもシンプルです。
ではなぜ、不安になるのか。理由は2つあると思います。1つは「何を根拠に判断すればいいのか分からない」から。もう1つは「あとでトラブルになったら怖い」から。
実際、私のところにも相談が来ます。「退居されたあと、ご家族から“まだ載っているのはなぜか”と言われた」。「認知症の方の写真、本人に説明しても伝わったか自信がない」。現場のリアルな悩みです。
だからこの記事では、感覚ではなく手順で解決します。ルールを決め、書式を作っておく。それだけで、迷いはぐっと減ります。
写真そのものの撮り方は別の記事にまとめています。載せる前提が整ったら、良い写真の撮り方もあわせて読んでみてください。
肖像権と個人情報、まず押さえる基本(用語をかみ砕く)
まず、言葉を2つだけ整理します。
肖像権(しょうぞうけん)。これは「自分の顔や姿を、勝手に撮られたり公表されたりしない権利」のことです。法律の条文にはっきり書かれた権利ではありませんが、裁判所が人格権(人としての尊厳を守る権利)の一つとして認めてきました。本人の許しなく顔写真を公開すると、この権利を侵すおそれがあります。
もう1つが個人情報。顔写真は、それだけで「誰か」が分かるので、個人情報にあたります。個人情報保護法では、集めた情報を何に使うか(利用目的)を決めて、本人の同意をもらうのが基本です。HPへの掲載も、この「利用」の一つ。だから同意がいる、というわけです。
かみ砕くと、こうなります。
- 肖像権 → 「顔や姿を勝手に公開されない」権利
- 個人情報 → 顔写真は個人情報。使うなら目的を決めて同意を取る
要は「ご本人の了解を得て、決めた範囲で使う」。これに尽きます。ここが、すべての土台です。
同意は口頭でなく書面で(掲載許可書に入れる項目)
ここが、いちばん大事なところです。同意は、口頭ではなく書面で取ってください。
「言った・言わない」は、あとで必ずもめます。特に退居後や、ご本人が亡くなられたあと。記憶がずれれば、善意どうしでも角が立ちます。紙一枚あるだけで、お互いを守れます。
私はこれを「掲載許可書」と呼んでいます。入れておきたい項目は、だいたい次の通りです。
- 誰の写真か(入居者さんのお名前)
- どこに載せるか(HP・パンフレット・SNSなど、媒体を具体的に)
- 何のために使うか(施設紹介、雰囲気の紹介など)
- 名前を一緒に出すか、出さないか
- いつでも取り下げ(撤回)できること
- 同意した日付と、署名(ご本人またはご家族)
ポイントは、「HPだけ」なのか「SNSも」なのかを、あいまいにしないこと。「載せていい」の一言でも、本人はHPだけのつもり、施設はチラシにも、となりがちです。媒体はチェックボックスで選べるようにしておくと親切です。
書式は一度作れば使い回せます。入居時の説明書類にひな形として綴じ込んでおくと、取りこぼしが減ります。書類まわりを整えている施設なら、重要事項説明書のWEB公開義務化の話とあわせて、一式を見直すいい機会かもしれません。
誰の同意が必要か(本人・ご家族・成年後見人のケース)
「同意を取る」と言っても、誰から取ればいいのか。ここで迷う方が多いです。
原則は、ご本人です。肖像権も個人情報も、ご本人のものだからです。判断できる方には、きちんと説明して同意をいただく。これが基本です。
問題は、認知症などで判断がむずかしい場合。このときは、ご家族(キーパーソン)に相談し、同意をいただくのが実務的な対応になります。ただし、ご家族の同意は「本人の意思を代わりに推し量る」もの。ご本人が明らかに嫌がっている様子があれば、ご家族がよいと言っても、載せない。私はそう考えています。
成年後見人(せいねんこうけんにん:判断がむずかしい方に代わって財産などを管理する人)がついているケースもあります。ここは少し注意がいります。後見人の役割は財産管理が中心で、写真掲載のような「人格に関わること」まで当然に含まれるとは限りません。判断に迷うときは、無理に進めず、法律の専門家に確認してください。
整理すると——
- 判断できるご本人 → ご本人から
- 判断がむずかしい方 → ご家族と相談(本人の意思も尊重)
- 後見人がいる → 権限の範囲に注意。迷えば専門家へ
迷ったら「載せない」。これがいちばん安全な初期設定だと思います。
撮ったあとの管理(利用範囲・保存・「やっぱり外して」への対応)
同意をもらって載せたら終わり——ではありません。むしろ、ここからが実務です。
まず、利用範囲を守ること。「HPに載せていい」と言われた写真を、勝手にチラシやSNSに流用しない。同意でもらった範囲を超えないのが原則です。
次に、写真データの保管。撮影データがスタッフの個人スマホに入りっぱなし、というのは避けたいところ。施設で管理する場所を決めて、誰でも見られる状態にしない。退職者のスマホに残る、というのが、いちばん怖いパターンだと思います。
そして、「やっぱり外してほしい」への対応。これは必ず起きます。同意はいつでも撤回できる、というのが大前提です。申し出があったら、すみやかに下ろす。ここでもたつくと、信頼を一気に失います。
私が実際に見た例です。ある施設で、退居された方の写真がHPに残ったまま。悪気はなく、更新を忘れていただけです。でも、ご家族には「まだ使われている」と映ります。あわてて下ろして事なきを得ましたが、ヒヤリとしました。それ以来、私は「退居時のチェックリストに“写真を外す”を1行足しましょう」とお伝えしています。
管理のコツを、3つだけ。
- 使う範囲は、同意の範囲を超えない
- データの保管場所を、施設で決める
- 「外す」依頼にはすぐ応じる/退居時に見直す
仕組みにしてしまえば、担当者が代わっても回ります。
顔を出さずに雰囲気を伝える方法(後ろ姿・手元・スタッフ中心・ぼかし)
「そこまで気を使うなら、いっそ顔を出さないほうが……」と思った方もいるかもしれません。それも、立派な選択だと思います。
実は、顔を出さなくても、施設の温かさは十分に伝わります。私がよくおすすめするのは、次のような撮り方です。
- 後ろ姿:スタッフと入居者さんが並んで庭を眺める後ろ姿。そこに物語が生まれます。
- 手元:折り紙、食事、レクの作品。手だけでも、暮らしが見えます。
- スタッフ中心:職員の笑顔や、声かけの様子。働く人の空気は、そのまま施設の空気です。
- ぼかし:顔にぼかし(見えにくくする加工)を入れる。ただし不自然になりやすいので、私は最終手段だと思っています。
顔写真がなくても、清潔感のある空間、季節の設え、スタッフの表情——伝わる要素はたくさんあります。施設は第一印象で選ばれる面が確かにあります。だからこそ、無理に顔を集めるより、安心して出せる写真を積み重ねるほうが、結局は長く続くと思います。
後ろ姿一枚でも、そこに暮らしがにじんでいれば、ちゃんと伝わる。私はそう感じています。
まとめ
入居者さんの写真をHPに載せる——このテーマ、こわがりすぎる必要はありません。手順さえ決めておけば、堂々と載せられます。要点を振り返ります。
- 肖像権も個人情報も、根っこは「ご本人の了解を得て、決めた範囲で使う」こと
- 同意は口頭でなく書面で。掲載許可書に、媒体・目的・撤回を明記する
- 同意は原則ご本人から。判断がむずかしければご家族と相談し、後見人のケースは権限に注意
- 撮ったあとの管理まで含めて、仕組みにする。「外して」にはすぐ応じる
- 顔を出さない選択もある。後ろ姿・手元・スタッフ中心でも十分に伝わる
写真は、施設の日々をいちばん正直に映します。だからこそ、載せる側にも誠実さが求められる。紙一枚の許可書と、少しの管理の習慣。それだけで、入居者さんもご家族も、施設自身も守れます。
不安なところは、無理に自己判断せず、専門家に確認しながらで大丈夫です。土台さえできれば、あとは良い写真を、安心して積み重ねていくだけ。——その一歩を、この記事が後押しできたなら、うれしいです。
